トロッコ

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「納得いかん!! いや、間違いに違いない! 第一、社長はあの炭鉱の閉鎖を決められてから、神経を病んでらした。万が一、その遺書が社長本人が書いたものだとしても、そんなものは無効に決まっている!!!」 そう重役の一人が、口角に泡を吹きながらまくし立てた。 部屋にいた他の重役達も、その殆どは同じように憤懣やる方ない表情で、狼狽える弁護士を見ていた。 ただ、先代の頃から仕えている、年老いた重役達の表情は何も変わっていない。 最初に口を開いた重役は、そんな年寄り達を指差しながら、 「そうだ! 病気の社長をこいつらが唆したのかも知れん! そんな話、私達は絶対に認めんからな!!!」 そう続けた。しかし弁護士は小さくなりながらも、 「いえ、これは正規の手順に従って書かれたものですし、医師の、社長は正常であるという診断書も添付されてます。ですから……」 最後は重役の剣幕に尻窄みになっていったが、それでも言うべき事を口にする。 「そっ、それならだ! 社長の遺書という事は死んでからの話だろう? 確かに此処に社長はおられないが、昨日はその姿をこの目で見ているし、死体等何処にも無いぞ!?」 「そんな事を言われましても、私はただ、あの炭鉱の爆破が終了したらこの遺書を公開しろと指示されただけですので」 最後のこの弁護士の言葉に、重役達が響(どよ)めく。 「……!! まさかあの炭鉱に!!!」 重役達は青い顔をして部下を呼ぶと、矢継ぎ早に指示を出した。 「と、とにかく、社長が見つかる迄はその遺書は認めんぞ! 分かったな!?」 そう言い捨てると、弁護士を残して重役達は部屋を後にしたのだった。
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