6人が本棚に入れています
本棚に追加
社長の死体が、いや、残骸が見つかったのは、それから数日後の事だった。
そして今、社長の椅子には、車椅子の青年が座っている。彼もまた、戸惑いを隠せないでいた。
遺書には、彼に自分の地位と財産を譲り渡すと書かれていたのだ。
そんな彼に、年寄りの一人が声をかけてきた。
「あんたは……そうじゃ、確か社長が子供の頃、一緒にいた……」
「はい、あの時は仲良くさせて貰ってました。ただ、あんな事があって、彼は人が変わってしまった。誰の責任でもない、ただの事故だったのに……」
「そうじゃ、そうじゃ」
青年と社長は幼馴染みで、毎日のように一緒に遊んでいた。
あの日は、近づいてはいけないと言われていた炭鉱に、子供達だけで近づいたのだ。
そして事故が起こった。
使われなくなった古い坑道の入り口。そこはその日、爆破する事になっていた。だが、そんな事を子供達が知る筈もなく、悲劇は起こったのだった。
泣き叫ぶ子供の声に気づいた大人達が慌てて向かうと、黒く汚れた幼き日の社長が、その入り口を塞ぐ土砂を、小さな手で掘り起こそうとしていた。
そこには、下半身が埋もれぐったりとした少年。
大人達が社長を抱き抱え、土砂を掘ると、他にも数人の少年が、遺体となって出て来たのだった。
そのすぐ後、社長はこの町を離れた。
ショックにより、記憶の一部を失ったとだけ風の噂で聞いていた。
この町に戻った時、彼の記憶は戻ったのだろうか?
それとも……。
最初のコメントを投稿しよう!