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僕は、椅子に縛り付けられた男性の話を聞くうちに、その声の質や、人に命令する事に長けた人間特有の喋り方にある記憶を刺激されていた。
それは幼い頃の記憶。
この小さな町では、彼の事を知らない者はなかった。
小さな町の住民の生活は、彼の親とその事業によって、支えられていたからだ。
その息子である彼は、この町の子供達のリーダーであり、逆らう事等許されなかった。
そんな彼は、何故か僕が気に入らなかったらしい。僕をターゲットにしたのだ。
そう、イジメのターゲットだ。
彼を畏れていた子供達は、彼の意向に逆らう事は出来なかった。
いや、親友はそれでも僕を庇おうとしてくれた。しかし、その為に彼の生涯は、車椅子から離れられなくなったのだ。
孤立無援の中、僕はとうとう、学校に行く事は無くなった。
その後、彼がこの小さな町に飽き、大きな町で大きな学校に通うようになってからも、彼の悪行は耳に入って来た。
その内容は、彼が成長するに従い、耳にするのも耐え難い程、酷いものになっていったのだった。
彼の所為で自殺に追い込まれた者達、一家離散の憂き目を見た者達。彼は沢山の悲劇を生み出してきていた。
そしてとうとう、今ではこの小さな町の唯一の生活基盤とも言える炭鉱をも、閉鎖してしまったのだった。
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