11人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
俺の彼女は腐っている。
唐突だが、腐っている。
今のご時世、こんな言い方をしてしまうと「あぁ、難しい掛け算が得意な方なんですね……」だなんて言われてしまうかもしれないが、そうじゃない。
そういったスラング的な意味ではなく、本当に腐っているのである。
物理的に。
「ただいまー。ってくさっ!うっわめっちゃくさっ!!」
7月、太陽の季節。
バイトから帰り自宅の扉を押し開けた俺の鼻を異臭が襲った。
その臭いを嗅いで俺は思う。
あ、アイツ来てるなと。
「おがえりー……」
妙な位置に濁点をつけた言葉で俺を出迎えたくれたのは、長年連れ添っている幼なじみであり彼女でもある女、天霧翔子。
「いやぁ、今日も暑いねぇ」
翔子は四畳半ほどしかない部屋の隅っこでゴローンと横になり、とんでもない異臭を漂わせていた。
「クーラーつけとけばよかったのに」
「電気代もったいないじゃん」
それで異臭を抑えられるなら安いもんだ、とは思ったが口には出さない。
俺は紳士なのである。
「あーうー……」
やる気なく畳の上を転がる翔子の体は、何ヶ所か爛れてぐっちょぐちょになってめくりあがっており、スカートから伸びる素足に至っては骨まで見えている。
腐っているのだ、体が。
この夏の暑さにやられて。
お前は何を言っているんだ、なんて思われるかもしれないが、誰が何と言おうと腐っている物は腐っているのだ。
何故翔子がこんなことになっているのか。
それを語るには少しだけ時間を遡る必要がある。
あれは去年の夏、丁度今頃の出来事だ。
最初のコメントを投稿しよう!