夏場は困りもの。

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俺の彼女は腐っている。 唐突だが、腐っている。 今のご時世、こんな言い方をしてしまうと「あぁ、難しい掛け算が得意な方なんですね……」だなんて言われてしまうかもしれないが、そうじゃない。 そういったスラング的な意味ではなく、本当に腐っているのである。 物理的に。 「ただいまー。ってくさっ!うっわめっちゃくさっ!!」 7月、太陽の季節。 バイトから帰り自宅の扉を押し開けた俺の鼻を異臭が襲った。 その臭いを嗅いで俺は思う。 あ、アイツ来てるなと。 「おがえりー……」 妙な位置に濁点をつけた言葉で俺を出迎えたくれたのは、長年連れ添っている幼なじみであり彼女でもある女、天霧翔子。 「いやぁ、今日も暑いねぇ」 翔子は四畳半ほどしかない部屋の隅っこでゴローンと横になり、とんでもない異臭を漂わせていた。 「クーラーつけとけばよかったのに」 「電気代もったいないじゃん」 それで異臭を抑えられるなら安いもんだ、とは思ったが口には出さない。 俺は紳士なのである。 「あーうー……」 やる気なく畳の上を転がる翔子の体は、何ヶ所か爛れてぐっちょぐちょになってめくりあがっており、スカートから伸びる素足に至っては骨まで見えている。 腐っているのだ、体が。 この夏の暑さにやられて。 お前は何を言っているんだ、なんて思われるかもしれないが、誰が何と言おうと腐っている物は腐っているのだ。 何故翔子がこんなことになっているのか。 それを語るには少しだけ時間を遡る必要がある。 あれは去年の夏、丁度今頃の出来事だ。
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