かつてこの地には人喰いが存在した。

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雪降るこの地の激情は死を表し、それは人喰いの愛を呼び、そしてそれは次の愛と死を呼んだ。 片の目は、激情を誘い彩る唐棣色。 もう片は、血の滾りを抑え狂わす紺瑠璃色。 情熱を映すその牙は、 空を突く三日月のよう。 愛を告げるその口は、 毒薬のように緋色をしている。 躰に流れるその狂い血は、 日の出直後の朝焼けのように赤く。 この地に駆ける吹雪のように白く。 灰色を混ぜ歪んだ闇のように黒く。 ――・・・否、この地において闇は白さを揺るがずにある。 真の絶望を指すのは、黒ではない、白だった。 一寸先をもの色を削る雪は、夜の漆黒をも無に染める。 ゆえにこの地に古より住まう先人は、白きを疎うのだ。 雪は激情を表し、そしてそれによりヒトは、凍ゆるような寒さのなかに確かに在る己という存在の暖かさを知る。 それは人喰いとて例外ではない。 人喰いも、遥か昔。古のさらに深きときは。 ヒトであった。 嗚呼何時からだ、我らが歩みをたがえたのは。 彼らはヒトを愛するが故、愛しすぎたため。 愛に狂ってしまったがゆえに。 人喰いはヒトより、愛に溺れすぎた。 愛するが故に喰らうのだ。 その肉体を。 その瞼の裏の水晶を。 その飾り狂った糸や キャンバスを。 そして求めている。 死して直の。 この世に存在しないと知っているが、その概念を覆せると確信できるほどの。 ――――永遠の愛を・・・。
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