Moderato

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私の指先が音楽を紡ぐ。 私がミスをしても薫は何も言わずにカバーしてくれた。 ピアノがこんなに楽しいモノだったなんて…。 『弾きたければ弾けばいい。』 先生が言った言葉が頭に過ぎる。 昔に比べたら全然下手なのに、私はただ無心で指を動かしていた。 「戻れるかな…。」 私がポツリと呟くと、薫は指を止めた。 「…戻れるよ。」 短くそう言うと、彼はゆっくりと音楽を奏で始めた。 音が染み渡るような気がした。 「ピアノ、好きなんだろ?」 そう尋ねた薫の声が酷く優しくて、私は涙を堪えながら小さく頷いた。 「俺も。」 薫が奏でるピアノの音が大好きだった。 まるで自分が一緒に奏でているような気がするから。 「薫…有難う…。」 私の夢を、薫は叶え続けてくれてたんだね。 「気付くのおせぇよ、ばぁか。」 言葉にならない位幸せだった。
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