Moderato

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授業が終わって、薫はすぐに教室を出ていった。 私は薫を追い掛けもせず、ただ残された文字を見つめた。 次の授業になっても、薫は帰ってこなかった。 今日は、ピアノの音色さえ聞こえない。 傷付けた? そうだとしても私は何をすればいの? やばい…頭混乱してる…。 『ごめん忘れて』 残されたままの走り書き。 「先生ッ!」 「え、はい?」 気が付いたら立ち上がっていた。 痛い程の周りの視線。 「体調悪いんで保健室行ってきます!!」 我ながら、無茶苦茶だと思う。 私は先生の答えを聞く前に教室を飛び出していた。 階段を駆け上がり、音楽室に向かう。 「薫ッ…!」 ドアを開ける。しかし音楽室には誰もいなかった。 「なにそれぇ…。」 急に走ったせいか、酷い目眩が襲ってきた。 私は思わずその場にへたれこんだ。 上手く呼吸が出来なくて、目の前が暗くなる。 どうしよう…動けない… 誰か… 「…大丈夫?」 声をかけられて思わず顔を上げると、そこには隣のケラスの男子が立っていた。 「…ちょっと目眩が…」 「まぢ?保健室まで連れてくよ。」 その人は親切に手を差し延べてくれた。 期待してた訳じゃない。 「…すみません…」 手を伸ばしかけたその時、 「アホ。」 伸びた右手首を思い切り掴まれた。 「俺が連れてくから。」 「ちょっ…!」 強引に腕を引かれ、ずるずる引きずられるように保健室に矯正送還された。
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