Moderato

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「は…離してよっ!」 「…。」 ずるずると、引きずられて保健室に到着。 「先生いないし…。」 幸か不幸か、保健室の先生は不在。 「とりあえず寝たら?」 そう言うと薫は面倒くさそうに溜息をついてベットを指指した。 「…。」 私は黙って返事もせずにベットに向かう。 靴を脱いで、揃えて、布団の中に潜り込んだ。 あ…なんか懐かしい…。 「あんなトコで何やってたんだよ。」 ベットの横の椅子に座っている薫が不機嫌そうに言う。 「別に…。」 「あんな得体も知れない男に着いて行こうとしてるし。」 「親切にしてもらっただけじゃん!」 「単純なんだよ、お前は!こんな時間にふらふらしてる奴の親切なんて下心以外にねぇんだよ!」 薫の怒鳴り声が、静かな空間に響き渡った。 気が付いたら、私の目からポロポロと涙が零れ落ちていた。 目線は合ったまま。 私の顔を見た薫は、一気に怒りの表情から困惑の表情に変わった。 「ごめん…言い過ぎた…。」 ゆっくり手を伸ばして、私の髪を撫でる。 心地よいその感覚に、私は目を閉じた。 「なんで、昔みたいにはなれないんだろうな…俺達…。」 そんなの決まってるじゃん。 私は女になって、薫は男になったんだもん。 月日はなんて残酷なんだろう。 同じ人間なのに。同じ存在なのに。 同じ顔なのに。同じ性格なのに。 あの頃みたいにできないなんて…。 「泣くなって…。」 大きな掌が頬を撫でる。 だけど、薫のその掌の温もりは昔と全然変わらい。 なんだかひんやりしていた。 私はそのまま、浅い眠りについた。
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