Moderato

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夢も希望もない。 私とアンタは、違い過ぎる。 「凄いよ、あすか!超混んでるね!流石!」 由美は楽しげに満員の客席を眺めた。 ここは市内の音楽センター。今日はある世界的に有名なピアニストの演奏会があるのだ。 「そりゃぁ有名な人だもん。」 私は入場時に渡されたパンフレットをめくりながらチラチラとステージをみた。 「あすかの知り合いなんでしょう?その人。」 「うん。」 「どんな関係なの?」 「…‥忘れた。」 「何それぇ!」 由美はブーブー言いながらも時計を見た。 「開演まで結構時間あるね。」 「そうだね。」 広いステージにピアノが用意されてある。輝くエンブレム。名器スタンウェイだとすぐわかった。 「…お茶でも飲む?」 「飲む、飲む!」 私達は会場を出て、休憩スペースに向かった。 「あれ、あすか、あの人…、」 ジュースの自販機とベンチの間に一人の男性が立っていた。 あいつは…、 「高校生ピアニストの富田薫だよね!?すっごいカッコイイ!本物だ!私握手してきてもいい?」 由美は目を輝かせている。 「行ってくれば?」 私がそう言うともうダッシュで彼の元に向かって行った。 まさか、あいつが来てるなんて…。 私はぼんやりと由美を見守っていた。 だが握手をしてもらうと、由美はくるりとこっちを向き、私の名前を大声で呼んだ。 「あすかも来なよぉ!」 男は、私の方に目線を向ける。 「本泉…‥。」 最悪の再会だと思った。
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