Moderato

4/15
前へ
/15ページ
次へ
演奏が終わると、私達はすぐに会場を出た。先生の楽屋に行こうと思ったが薫がいる可能性があるのでやめた。 「じゃぁあすか、気をつけてね。」 「うん、また明日。」 駅前で由美と別れ、一人で家に向かった。 帰りながら先生に電話をしたがもちろん留守電だったので、短いメッセージを残しておいた。 家に帰り、ぼんやりとしていたら携帯の着信音が鳴った。 「はい、もしもし?」 『あすか?今日は来てくれて有難う。楽屋に顔だけでも見せに来てくれれば良かったのに。』 先生の声は昔とちっとも変わらない。 「邪魔になると思ったから。それより、先生、ちょっと太ったね。」 『薫にも言われたよ。まぁ10年も経ったんだ。当然だろう?』 思わず笑ってしまった。 『あすかも体調に気をつけて頑張りなさい。先生はいつも応援しているよ。』 「はい…。有難う、先生。」 ピアノを辞めた今でも私は先生と呼び続けている。そして先生も私を未だに生徒のように心配してくれる。 だから私は、ピアノを辞めたことを後悔していない。 「あー…眠い。」 翌日、私は特にいつもと変わらない日常を過ごしていた。 「明日この数式のテストするからなー!終わりにします。」 やっと授業が終わり、重い体を持ち上げた時、 「え…何これ?ピアノ?」 「すごい、上手いよ。先生かな?」 どこからか聞こえてくるピアノの音色。 この音色は… 「おい、本泉!どこ行くんだ!」 気が付いたら私は教室を飛び出し、音楽室へ向かっていた。 ーガラガラッ 勢いよくドアを開けた。中には理事長先生と校長先生、そして音楽の教科担任がいた。 「本泉さん…どうなさったの?」 理事長が驚いた顔でぜぇぜぇ言っている私を見ていた。 「よくわかったじゃん。」 そしてピアノの方からは、他でもない薫の声。 「馬鹿にしないでよっ…耳だけはいいんだから。」 最悪な再会の続きだった。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加