Moderato

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「何してんのよ、こんなとこで!」 「何って、学校見学?」 「見学なんてしてないだろ!明らかに!」 「俺、ここに編入することになったの。」 「…‥は?」 へんにゅう?今、へんにゅうって言いました? 私が呆気にとられていると後ろから理事長の声がした。 「まぁ、本泉さんは薫くんと知り合いだったのね。では、薫くんのクラスは本泉さんのクラスで決定ね。」 追い討ちをかける言葉。まさか夢でも見ているのか? 「だって。災難だな、本泉。」 当事者のくせにけろりとした顔をしている薫に腹が立ったが、冷静に考えてみたら私は関係ないことに気付いた。 クラスに来れば、女子に囲まれて私と接する機会なんてないはず。 なんだ、楽勝。 …‥のはずだったのに。 「本泉、教科書見せて。」 なんの陰謀だか策略だか知らないが、隣同士にされた。 「…‥はい。」 英語の教科書を手渡すと薫はペラペラとページをめくり、 「日本の高校ってこんな簡単な英語やってんの?」 と拍子抜けしたような声を漏らした。 「…‥本当にいちいちカンに障る男だね…‥。」 「そーいう意味じゃないって。あっちはもっと英才教育激しいんだよ。」 「ふぅん。」 「つーか、古典って何?」 「…‥。」 薫の顔は真剣そのもの。 まぁ海外には古典なんてありっこないはずだよね。 「…‥昔話…みたいなもん。」 「へぇ。じゃぁさ、」 「今度は何?」 さっきから質問ばっかりで、私は溜息を漏らした。 「なんでピアノ辞めたわけ?」 まったく予想もしなかった質問だった。 ただ、 息が止まってしまうんじゃないかって位、胸が締め付けられた。
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