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私は幼い頃、薫に並ぶピアノの才能を発揮していた。
もちろん将来はピアニストニなるのが目標だった。
「身の程知る理由が、俺にはわからねぇよ。お前は俺以上の実力があったじゃねぇか。」
「…‥。」
技術とか、実力の問題ではないのに。私の、致命的な欠点。
「忘れちゃったの?」
「…何を?」
薫は不思議そうな目で私を見る。
私はゆっくり長くてボタボタしたセーターの袖口をたくし上げ、掌を薫に突き付けた。
「これじゃぁ、どんな曲も弾きこなせるはずないじゃん。」
私の掌は他の人より少し小さい程度。しかしピアニストにとって指の長さや手の大きさは必須問題なのだ。
「オクターブが限界なんて、最低すぎるよ。」
まだ7歳だった私は、そんな自分にひどく嫌悪した。
それでもまだ成長すると期待していたのに、身長だけが伸びて掌の大きさはほとんど成長しなかった。
長い沈黙が流れた。
『すげー、本泉もぅ赤いバイエル終わるの?』
『えへへ。明日から黄色だよ。早く曲弾きたいなぁ。』
小学校が終わるとすぐにレッスンに向かっていた。
まだ全てが輝いていた頃。
「きっと神様が、私はピアニストになるべきじゃないって思ったんだよ。だから…仕方ないの…。」
わかっているのに、私はピアノが大好きだった。薫がピアニストとして有名になった時、羨ましかったし嬉しかった。
なんで私は駄目なの?
誰に聞いたって、答えてくれるはずないんだ。
先生の言葉を思いだす度、もう一度どやり直そうと思うのに…。椅子に座り、鍵盤の上に指を乗せると身体が凍ったように動けなくなった。
『好きなら弾けばいい』
それさえ出来ない私は、どこまで無能なんだろうか。
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