Moderato

8/15
前へ
/15ページ
次へ
『俺、ドイツ行くことになった。』 『…ドイツ?』 『プロになりたいから。』 『そっか…。』 『本泉も頑張れ。』 『…。うん…。』 行かないで。 置いていかないで。 「…み…本泉…。」 「…!」 ばちっと目を開くとそこには薫…ではなく、担任が机の前に仁王立ちで立っていた。 「あーついてない。」 私は結局、目が覚めるような量の課題を出されてしまった。 「まさか鬼の桂木の英語で寝るなんて…不覚だ…。」 「何度も起こしたんだよぉ。」 由美は笑いながら帰りながら買った缶のココアのフタを開けた。 あんな夢を見るなんて… 小学生の私と、薫。 「あすか、薫様と帰らなくてよかったの?」 「は!?いいに決まってるじゃん。何言ってるの?」 「だって薫様、クラスの女子から一緒に帰ろうって誘われたのに断ってたし…あすかと帰りたかったんじゃない?」 「まさか…。ないない。」 きっぱりと否定すると由美は不満そうに首を傾げた。 「あすかも、薫様も素直じゃないんだから。」 私は思わずその言葉に笑ってしまった。 本当に私達はお互い様という言葉がよく似合う。 小さい頃はいつも喧嘩ばかりしていてピアノの先生に 『似た者同士だ。』 とよ怒られた。 10年経っても、私達はお互いに大人になれていないようだ。 私ははちっとも変わっていない。 薫だって。 なのに何で? 一緒にいるのが辛いんだろう…。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加