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「んー、腰が痛い」
腰に手を当てて体をねじる。
そんなのんきな声とは裏腹に頭では全く別のことを考えていた。
人の視線が怖くてたまらない。
精神的な苦しみは自分の体に直結して、ダメだと感じるときは足元からぐるぐる回るように、立っていられないほどの気持ち悪さが体を襲う。
そしてそんな事態をなるべく回避するために編み出したのが眼鏡をかけることだった。
周りの視線が気にならないように視界を悪くするために伊達眼鏡をかけるようになった。
安易な考えだけど、案外、視界が悪いとそんなに気にならなくなる。
けど、視界が悪いってのは相当に疲れてしまう。
だから、休憩、つまり今はその眼鏡を外している。本当に眼鏡は疲れるから。
まぁそれは、私が休憩中のこの時間、この場所で人に鉢合ったことがないからという安心感からできる技だけど。
―――この時間は誰もこない。
結構な頻度でここを使っているけど一度も被ったことはない。
だからだ、だからなんだ。だから
――――油断していた。
時を刻む時計の針が小さな音を奏でる。
それはこれからも歩み続けていく人生の分岐点、これから始まる数か月の出来事の開始を告げる運命の歯車の音のようだった、と後の私はそう思った。
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