No.1「それぞれの出会い、そして想い」其の壱

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「なら私からは何も言うことはないわ。」 藪下さんは満足げに頷いた。 「いつからになってるの、向こうへの入社は」 「うまくいけば、明日にでも」 「うまくいけば…?」 僕の言葉に違和感を感じた彼女はその言葉を繰り返した。 「はい、うまくいけばです」 そう、うまくいけばなのだ。 あとは、彼女たち次第 YESかNOで、決まるのだ。 「まぁ、いいわ」 しばし困惑状態の藪下さんだったが、僕を見て何かを悟ったのか聞くのをやめた。 「つまり、今日でこの事務所内で会うのは最後って訳ね」 「いや、一応明日の夕方に事務所のみんなに知らせ…」 「私、明日から出張。美心とね」「えっ!?」 ということは、本当に今日で藪下さんとはしばしの別れとなる 「だから、今日話をした方がいいと思ってね」 相変わらず、先を読んで行動してなさる…。 「藪下さん」 「うん?」 「本当に色々とありがとうございました」 深くお辞儀をした。本当にお世話になったから、藪下さんには。 「別に良いって、そんな改まって大したことはしてないわ」 少し恥ずかしそうに、手を振る。「けど…」そう言って、しっかり僕を見据える。 「あんた変わったわよ、この一年で、いや昔みたいに戻ったと言 うべきね」 昔みたいにか… それには寂しく笑うしかなかった「そう…ですかね」 「えぇ、だから…」 藪下さんから手を伸ばされる 「頑張ってきなさい」 「はい」 そう言って手を握り返した 「さて、あんたとも今日で一応最後な訳だから、ちょっと早いけどお昼奢るわよ」 「あっ、ちょうど今から向こうに行く予定があったので、その前に」 「よしよし、では行きますか」 「はい」 荷物を持ち、前を歩く藪下さんについていく。 そう、あの場所へ再び 765プロダクションへ 僕は戻るのだ 彼女たちの夢を叶えるために
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