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その後の話を聞くと、ようやく達也にも分かった。
同じなのだ。5歳の時に負った火傷の痕もまったく同じ所に残っていた。
「そんな…馬鹿な」
「私とあなたは、運命で結ばれてるのね…」
心なしか、彼女の頬が赤らんだ気がした。
達也はふいをつかれ、ぼーっと彼女を見つめていた。同じ人生を歩んでいるとしたら、彼女は独り身だ。
ここまで運命運命と騒がれたら、それは意識してしまうだろう。
しばらくすると、彼女は立ち上がった。鞄を持ち「じゃ、営業所でまた」と笑いながら、達也の前を歩いていった。
少しの間、彼女の言葉を意味を考えた。
「まさか…」
今日は神奈川の営業所に出張で来ている。そうだ、間違いない…彼女も、出張であの営業所に向かっているのだ。
達也は嬉しくなって、昼飯がてら紅茶とケーキを頼んだ。彼女もきっと同じものを注文したであろう、そう思うとたまらなく嬉しくなった。
彼女は、運命の人だ。
しばらくして、達也はティーカップを置いた。
もう出なければ間に合わなくなってしまう。
そう思い、達也はレジで会計を済ませ、店の外に出た。
その時、ポケットから振動が伝わった。すぐさまポケットに入れていた携帯を取り出して電話に出た。
「もしもし、神奈川営業所の森田ですけど…もうひとり出張で来るはずだった横山という社員がトラックにはねられてお亡くなりになられましたので…しばらくはお休みというかたちでお願いします」
この時、すでに嫌な予感はしていたのだ。
「…横山さんは、女性ですか?」
「ええ、そうですよ」
彼女だ。
衝撃のあまり、思わず携帯を落としてしまった。
そして不思議なことに、先ほどの彼女との会話が、フラッシュバックのように頭に流れた。
‘私とあなたは、運命で結ばれてるのね…,
もの凄い轟音に我に返った。
目の前には、大型トラックが迫っていた。
完
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