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今、ここは異様な熱気に包まれていた。
誰もが皆、これからの未来が光あるものと信じ、栄光を掴まんとしている。
溢れんばかりの期待と僅かな不安、そんな瞳で檀上を見据えていた。
長くもなく、そして力ある、激励の祝辞を述べている、どこにでも居そうな白髪を湛えた老人。
話し終え、同時に割れんばかりの拍手喝采。余程彼の言葉はうら若き彼ら彼女らの心を捉えたのだろう。
だけどボクは冷めた眼差しで舞台袖から眺めるだけで、何も賞賛する気になどなれなかった。
彼が言っていることは至極当然で、ボクにとっては呼吸をするのと同じだった。
不意に老人が右手を挙げた。
すると静寂が広がる。
まるでこれから起こる悲劇を舌なめずりし歓喜するサディストのようで。
「次は諸君らも知っておる、英雄様からのお話じゃ」
ふむ、ようやくボクの出番か。
唐突に、ボクの存在が舞台袖から消え、老人の真横に現れた。最初からそこにいたかのような自然さで。
誰も声を上げられなかった。
彼女が余りにも神々しく、跪きたくなるほど、桁外れな存在だった。
直視することすら、不敬に感じられた。
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