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突然現れた彼女だが、老人は何も言わずに気配を消して立ち去った。
それを見計らったかのように、唄うように、美声が奔った。
「諸君らも知っていると思うが、ここで今一度名を述べておこう」
彼女の言葉が紡がれ、響くたびに、脳髄が蕩け、熱狂的なまでに心酔していく。
「ボクの名はディオネ・ケイオス・アルテミス。諸君らと同じ、学び舎の一年生だ」
抗えない、抗えない、抗えない。
いくら抵抗しようとも、心は、魂は、ディオネに魅かれ、差し出してしまう。
「まずは入学おめでとう」
長く美しい金髪は光り輝やき、彼女の碧い瞳は、母なる海を想起させるほど慈悲深く、命奪う洪水のような冷酷さを秘めていた。
だがそれは左目だけである。
右目は眼帯に覆われているのだ。だがそれが彼女の美を損なうどころか、荒々しさが加わり、より芸術じみた美を放っていた。
さらに白と金を基調とした軍服は、まさに彼女を戦女神たらしめていた。
「これから諸君らは──」
遮られる。強烈な閃光と爆音と爆風によって。
暗転する視界。響く怒号と悲鳴。
狙われたのだ。この国の重要人物であるディオネが。
厳重な警備で、しかも化け物揃いのサークレッドゲート王立学院で。
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