プロローグ

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「またやってしまった!」 俊子は、部屋の様子から、そのことが分かった。 この時、亜紀子は、通院中の心療内科で処方された抗うつ剤、睡眠剤など数種類の薬を大量に飲んで自殺を図ったのである。 三度目の自殺未遂だった。 「水を飲ませて吐かせようとしたのですが、何度もそうしているうちに亜紀子の指先や唇が、血の気が失せたような紫色になってきてしまったんです。 それで急いで救急車を呼びました……」 救命救急センターの記録にも残っているのだが、「血の気が失せたような紫色に……」とは、この時の亜紀子がチアノーゼの状態にあったことを示している。 呼吸状態が悪化すると、肺で行われる血液中への酸素供給が十分になされず血中の酸素飽和度が低下してしまう。 すると、表面的には指先や唇などの未梢が紫色に見え、その状態をチアノーゼと呼ぶのである。 それまで自分で何とかしようと頑張っていた俊子が、驚いて119番通報をしたのは無理もないことであった。 記録によれば、119番覚知は午前2時19分。 その5分後に救急隊が到着した時、亜紀子の意識状態は「レベル100」。 レベル100とは、「痛み刺激を加えても覚醒はしないが、払いのける動作をする」という程度の状態のことである。 救命救急センターに運ぶほど重症ではないと判断した救急隊は、彼女の自宅にほど近い総合病院の救急外来へと搬送することに決めた。 ところが、外来に到着する頃になって彼女の意識状態は急激に悪化し「レベル300」にまで落ち込んでしまう。
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