第一章 光の泉

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   今ではその男と、リュミエール自身以外知らない一つ事実。それは、彼女が先の事象を見(まみ)えること。  しかしそれが、いつまで隠し通せるかは彼女も知らない。  なぜなら、あくまで自分の運命だけは予期できないのだから。 「そもそもローマからこちらへくるのに何故あんな場所へ────」 「方向音痴なんじゃないのかしら? あれだとオーストリアの方に行ってしまいそうね」  男と目を合わせることなく、外に焦点を定めたままのリュミエールは、彼に全てを言わせることなく即座に返す。そうしてまた、同じことの繰り返し。 「それなら何故、あの時彼を────」 「もぅ、何度も言ってるじゃない。 彼はあそこで"死なないって分かった"し、それに彼、一人で行きたいみたいなこと言ってたから」  そこでようやく彼女は男の顔をその瞳に映した。  無論、言い訳が言いたい為ではない。単に時間がきたから。"いつもの"その時間がきたから。 「しかし────!」 「もう多くは言わなくていいわ、ジョゼフ。それより午後のティータイムの用意はできて?」  細かな刺繍が施された白いドレスを風に揺らし、すっと立つと同時に、金髪の乙女は娯楽の時間を彼へと促す。  
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