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思い返されるは、空を滑る星座。皎白の月が夜を照らしだす中、行く宛てもなく流れる天の川。
ふと空を見上げれば、"光の幕"が渦を巻く、冬の月夜。鈴蘭畑は今も昔も相も変わらず、そこで悲哀の唄を奏でる。
遠い昔、子供の時。寝る前にきまって聞かされた、とある神話の物語。彼女が言うには北欧の、彼が言うにはギリシアの。それぞれ違う話だけれど、それらはどこかで繋がっている。
そんな気さえしてしまう。
「済んだのか?」
プラチナブロンドの髪を風に任せ、その男は問う。胸元に銀色の十字架を煌めかせながら歩いて来た、燃えるように赤い髪の男へと。
彼の羽織る黒いコートが、止まり際風に靡くと、近くの枝で鳴いていた木菟(みみずく)が飛び去って行った。そんなこと等気にも止めず、その男は"目先の現実"だけをただ見つめている。
彼の目の前に広がる、多くの茨に包まれる焼けた屋敷を。
「本当に、あんたはあいつを知ってるんだな?」
夜の闇に、憎悪の低い声が通る。
「ああ、だから私はここに来た」
目には目を、歯には歯をだ、と。光が透けそうな程に美しい金髪の男は、そして小さくそう付け加えた。
それから彼は、木々の隙間から天を仰ぐと、ハァと、長い息を漏らした。
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