5人が本棚に入れています
本棚に追加
鬱蒼とした夜の森を、一人の少女が行く。その胸元には白銀のペンダントが一つ。細かなチェーンによって、月明かりの照らす細い首にそれはかけられていた。
足音が乾いたものから、次第に水を踏むときのようなものと変わり始めてきた。そこで少女は無言のまま、急に歩くのをやめた。木枯らしがサワサワと鳴いているのが、優しく鼓膜を震わせる。
そうして少女は、ふと顔を空に向けた。なるほど、彼女が今佇んでいるすぐ上は、ぽっかりと穴が空いていたのだ。
嗚呼、なんと綺麗な星々だろうか。少女はひとつ、その輝く瞳をしばたかせた。皎白に煌めく満月が、満天の夜空をより一層明るく照らし出している。この地球(ほし)に近付き落ちて来ることもなく、それでいて今以上に離れることもない。それはまるで、思えば思うほどに夫婦や恋人のようにも見えてくる。
咄嗟、月が歪んだ。薄い雲が間に入り込んできたのだ。それを見て、少女が短く溜め息を漏らした。吐き出された呼気が、冷たい外気に触れ、視界を白く曇らせてゆく。
それからやや強い風が、彼女の前を飄々と走り去っていった。ザワザワと、憂鬱な森の木々がより大きくざわめき始める。
そして、月光を遮っていたあらゆる曇りが、突然に晴れた。少女の絹糸のような細かな金色の髪が、夜闇の中に乱れる。
「確か、ここのはずなんだけど」
小さく、少女が口を開いた。その視線を、胸元に下げられたペンダントへと落として。
最初のコメントを投稿しよう!