第一章 光の泉

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  「なんで、お前なんだよ……」  彼は愕然とした。  かつてあの咲き乱れる鈴蘭の中で、いっそ死んでも構わないと、そう思っていた自分の命をつなぎ止めてくれた小さな恩人が、そこにいたから。自分は今まで誰に怨みを抱いてきた。本当に彼女なのか。そういった迷いが、彼の心中をグルグルと掻き乱してゆく。  そしてカタンと、滑るようにして手の中の剣が床に触れた。  俺は今、誰を殺そうとした?  仇の娘、憎き地の後継者?  相手が苦しむならば、手段を問わず、俺はこんな幼い娘をも手に掛けようとしたのか。  赤髪の男は、自身へと向けられた己の畏怖に震え、そう自問する。 「あなたが、ヴェリアーニ・エステートね?」  少女はパサリと、重くのしかかる布のミルフィーユを押しのけ、ネグリジュから除く細い足をベッドから降ろした。 「────ッ!? なんで、俺の名前……」  きめ細かな白い爪先が、ベッドの傍に揃えられた綿のスリッパへと吸い込まれる。  それから静かにリュミエールは立ち上がると、パサついたその髪を手櫛で直しながら、今にも雨音に掻き消されてしまいそうな声で彼の問いに答えた。  
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