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「……、────なっ!?」
けれど、彼が驚いたのは、そこではなかった。彼の瞳は今、彼女によってたくしあげられた、セミロングの髪に隠された"それ"へと向けられていた。
恐らく、ネグリジュを着たままでも見えず、かつ髪をあげなければ見えないような、そんな場所にその印は刻まれていた。
「あなた、《魔女》はいると思う? ううん、違う。この世界に、魔法や超能力があると思うかしら?」
それは、刺青でも痣でもない。
暗闇の中でも不気味に仄めくその印は、彼の瞳がそれを見ているのか、その印が彼を見ているのかどちらか分からなくなるような、そんな錯覚を見せてきていた。
「この事は、私の亡き母と、執事のじいやしか知らないわ。"ダビデの六芒星"、これが何を意味するか分かるかしら?」
そっと、リュミエールはその印を雪のように白い手の平で覆う。
それもそうだろう。生まれながらにしてあるこの忌まわしい印は、他人に見せたいものではないのだから。
「貴方には、私は自由の身に見えるかも知れない。でも私は、今までも縛られ続け、これからも縛られつづけなければならないの。運命という、世界という、抗うことのできない神の力に畏れ、未来を知りながらもそれに従わなければならないの」
言葉を紡ぐ少女の口元は奮え、彼の耳に入るその声も、見えざる運命(かみ)の手に恐怖しているように聞こえてくるのだ。
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