第一章 光の泉

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        † 「えっち」  陽光は差し込んでいるけれど、やはり防寒器具など無い時代。暖炉だけでは物足りないのか、肌を掠める空気の流れはいつもにも増して冷たく、気を抜けば風邪を引きかねないだろう。 「うるさい。つーか、お前が勝手に見せたんじゃないか。言っておくが俺は見せてくれと頼んでないからな」  昨夜二人は、空の涙が地を叩く旋律を背景に語り明かし、互いの過去を伝えたばかり。もちろん、リュミエールにとって彼の過去を知るとは意味の無いことではあったが、自分の生きてきた道を他人に話す、といった面では何かしらの意味を見いだせたのかもしれない。現に、彼に出会う以前と出会った後とでは、彼女の表情に大きく差があるのもまた、事実であるのだから。  それでも彼女は、自分の全てを話した訳ではなかった。自分の触れたくない、『大切な者』の変化と死、そしてその前後だけは避けて話していた。 「それは……分かってるつもりだけど、あの時は物凄く逆上してたし、それに、そんなつもりで────」 「いいから前向けって、ボタンがしめられないだろうが」  ともあれ、ふて腐れ顔であれこれと言い訳を並べるリュミエール。  対するヴェリアーニはというと、どういった訳か彼女に服を着せる羽目になっていた。 「………………、ケチ」
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