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「何か言ったか?」
「ううん、なにも」
ようやく部屋も十分に暖まってきただろうか、足元を這う冷気とは対照的な背筋を這い昇る暖気に、少女はブルリと体を震わせた。それにふと気付いたヴェリアーニは、作業の手を止めるとわざと彼女の肩に手をかけ、ぐっと軽く体重をかけた。が、すぐさま「何してるのよ」と冷たい視線を送られ、ゆっくり「何も」と視線を床に落とさざるを得なくなった訳だが。
「ところで、ベル? 貴方のご両親の事、ごめんなさいね……」
リュミエールは一度、暖炉の中を揺らめく焔へと目線を配り、それから悲しげな表情で小さく首を横に振った。
「リュミエール。それは、お前が謝ることじゃねぇよ。お前だって、あいつに苦しめられてるとは思いもよらなかったしな」
「ベル────」
そんな彼の受け答えにリュミエールは、何かを感じたのだろう。目をつむり彼の声を聞く少女は、月光のように優しく微笑んでいるのだから。
「あなた、意外と優しいのね」
「ばっ────!!」
あまりに唐突な台詞に戸惑い、ヴェリアーニは咽び咳込んだ。
そんな彼の慌てぶりを背後で感じ、可笑しさからか、はたまた別の感情からか、リュミエールは小鳥のように可愛らしく笑い声をあげた。
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