第一章 光の泉

22/30
前へ
/147ページ
次へ
  「何か言ったか?」 「ううん、なにも」  ようやく部屋も十分に暖まってきただろうか、足元を這う冷気とは対照的な背筋を這い昇る暖気に、少女はブルリと体を震わせた。それにふと気付いたヴェリアーニは、作業の手を止めるとわざと彼女の肩に手をかけ、ぐっと軽く体重をかけた。が、すぐさま「何してるのよ」と冷たい視線を送られ、ゆっくり「何も」と視線を床に落とさざるを得なくなった訳だが。 「ところで、ベル? 貴方のご両親の事、ごめんなさいね……」  リュミエールは一度、暖炉の中を揺らめく焔へと目線を配り、それから悲しげな表情で小さく首を横に振った。 「リュミエール。それは、お前が謝ることじゃねぇよ。お前だって、あいつに苦しめられてるとは思いもよらなかったしな」 「ベル────」  そんな彼の受け答えにリュミエールは、何かを感じたのだろう。目をつむり彼の声を聞く少女は、月光のように優しく微笑んでいるのだから。 「あなた、意外と優しいのね」 「ばっ────!!」  あまりに唐突な台詞に戸惑い、ヴェリアーニは咽び咳込んだ。  そんな彼の慌てぶりを背後で感じ、可笑しさからか、はたまた別の感情からか、リュミエールは小鳥のように可愛らしく笑い声をあげた。  
/147ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加