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「ここは?」
そこは鬱蒼と生い茂る森の中、僅かな木漏れ日が彼等の標となるのみで辺りは昏く、自分一人であれば恐らく迷ってしまうのではないかと思えるほどの場所だった。
時折聞こえる鳥の囀りが「ああ、今自分はここにあるな」と感じさせてくれるからよいものの。もしもここが音の無い世界であったら、気が狂ってしまうのではないかと、そう生命の警告音が鳴らされそうである。
そこで一歩ヴェリアーニが足を前にだすと、先に止まったのだろう。そこには、こちらに人差し指を突き立てる少女がにわかに口元を緩めそして、彼はその細い指に突き当たったのだ。
「何してんだよ」
「『ここが貴方の死に場所よ、バァン』」
「は?」
「ごめん、なんでもないわ。……それよりあのね、遠い昔ここには大きな泉があったんだって」
リュミエールはその場でクルリと蝶々の様に回り、風に煽られ舞い上がったそのドレスの裾が完全に下まで落ち切るかどうかのところで、そう口火を切った。
「泉?」
確かに言われてみると、他の位置に比べそこの足場はぬかるみそして低く、見れば幾つもの水溜まりが広く点在していた。
多分、昔から雨が溜まりやすい地域だったのだろう。或いはピレネー山脈から流れくる川を一時的にせき止める、そんな小さなダムとしてここは働いていたのではないだろうか。
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