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少なくとも小一時間は歩いただろうか。時は既に正午を回り、普通であれば外気もそろそろ暖かさを増す頃。けれどもそこは、いまだに肌寒さを残すどころかむしろ、更に涼しさを増し始めていた。
どこか遠くで、水の滴る音が聞こえる。川の瀬々らぐ音が聞こえる。閑古鳥の鳴き声が、広がる闇に響き渡る。
そんな、湿った土の匂いが鼻孔をくすぐる中、ヴェリアーニはふとリュミエールに問いた。
「こんな薄暗いとこに何があるんだよ」
どれだけ歩けども目的地に着かないことに対して、若干の怒りが募りはじめたヴェリアーニ。いいや、不安が掻き立てられているといった方が正しいだろうか。
見ず知らずの土地で、出会ったばかりの少女に連れられているのだから、当たり前といえば当たり前である。
「それはね、もう少し行けば分かるわ」
呑気にもそう言葉を紡ぐリュミエール。ところで、彼女には恐怖というものが無いのだろうか。深い森の中に男女が二人、何があってもおかしくはない状況だというに。
「ほら、あそこに建物があるの、見えないかしら?」
突然、リュミエールは遥か前方を指差し、そこで疑問符を打つ。とはいえ、ここからではその先に何があるかさっぱり分からず、ただただ深緑の木々と雑草に視界を遮られるのみである。
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