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「まだ何にも……いや、何か見える、か?」
しかし、それでもよく目を凝らしてみるとその中に一つだけ、小さく目につく光景があった。
陽の光さえもまともに届かないような暗い森に、うっすらと差し込む陽光。その下に真っ白な何かがあるのが、見て取れたのだ。
思うに"彼女が彼を連れていきたい場所"は、あの場にあるのではないだろうか。
「とにかく行きましょう。 きっと、ベルも驚くと思うわ」
その真偽を口にすることなく得意げに言葉を紡いだリュミエールは、今までよりもやや足速になっていた。
そんな彼女の後を遅れずに歩くヴェリアーニは、ふと何かに気付き視線を左右に向けながら付いて行く。
踏み鳴らされる草や枯れ枝に紛れ、わずかに垣間見うる棘の生えたつる。その所々に付いた小さな蕾は、ほんのりと赤く色付いてきている。
茨だ。いつの間にか足元に茨が広がり始めていたのだ。それはまるで、彼等をあの白い建造物の所まで導くかのように、つるを橋のように伸ばしている。その上を二人は渡っていたのだ。
その光景は本当に、百年の眠りから覚めた童話の情景を思わせるものだった。
「ここよ、ベル」
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