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「私ね、ここで産まれたの」
館内の燭台に火を燈しながら少女は、憂い気な表情を浮かべ口火を切った。
燈された小さな炎たちはユラユラと揺れ、館内を懸命に照らし出す。そうしてリュミエールは、手の届く限りの燭台全てに火が点いたのを見届けると、手元で名残惜しげに揺らめくマッチの炎を吹き消した。
先程に降り始めた雨も今や、その脚は激しくなってきていた。そしてリュミエールは、小さな館の窓辺に立ち、キィとそれを押し開いた。
ぴしゃぴしゃと乳白色の肌に撥ねる水飛沫になど気にも止めず少女は、右手の、先端の焦げたマッチ棒を外へと投げ捨てた。
激しい雨たちが青葉を叩く音が、大理石の敷き詰められた玄関に響く。
それからパタンと扉の閉められる音が聞こえると、再びその場に静寂が訪れた。
「私の産まれた部屋、行ってみる?」
ギシリと、木製の窓枠が鳴いた。
そうしてヴェリアーニが気付いた時にはすでに、リュミエールはこちらに体を向け、微笑を浮かべてそれから会話を続けたのだ。
「いや」
緩く、そしてまた激しく。その強弱が幾度となく変わる雨脚に揃え、ヴェリアーニの鼓動も何度も変化する。
昨日、しかも仇討ちとして自分に襲われかけたというのに、自身の出生までを教えようとしている目の前の少女に戸惑ったからだ。けれど、そんな彼女の好意も無下にはしたくなかった。だからこそ悩み、然して答えた。
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