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「私も、その時初めて知ったの。相手の事をもっと深く知りたいと思ってしまったら、その人の未来は見えなくなってしまうのだと」
彼女の瞳が、ユラリと揺らぐ。その瞳の奥で涙を溜め込み、流れ出るのを必死に堪えているのだ。
「私は、その人に恋をしてしまったの」
それでも、限界だった。彼女の内に溜め込まれた悲しみの塊は、彼女の平常を保とうとする心さえも打ち破る。
そして、溢れ出た涙を一度、その細い腕で振り払いリュミエールは会話を紡ぐ。
「もしもあの時、彼の事を好きにならずに、彼の未来が分かっていたら……そう思うだけで、もう……」
嗚咽混じりに話し続け、泣き崩れたリュミエールをそっと抱き抱えたヴェリアーニ。彼女の髪に宛てがわれた彼の右手が、何度も彼女の頭を撫でる。
それから、どれくらいの時が流れただろうか。彼女の嗚咽が止まり始めた頃、再び彼女は口を開いた。
「昨日、ベルにも話したわよね? 私のお父様がお母様を殺めた時のことを────」
今彼女が話そうとしていることは、本当は誰にも話したくはないことであると、ヴェリアーニは知っていた。
彼女の表情が、ヴェリアーニへとそう訴えかけていたからだ。
けれど、自分一人で抱えつづけるのも無理だと。その瞳は彼に伝えている。
だからこそヴェリアーニは、少しの迷いの後にコクンと、頷いたのだ。
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