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「あの時の目は……正気じゃなかったわ……、それは分かるの。あんなの、お父様じゃない────ッ!」
悲しみの色に染め上げられた瞳に、恐怖の色が宿る。目の前の現実全てを否定し、そんな事は有り得ないと言い切る。そういう時に見せる瞳に、彼女のそれは似ていた。
「なぁ、ルミ。一つ疑問なんだが、訊いてもいいか?」
だからこそヴェリアーニは、それを和らげる意味でも、自身の疑問で彼女の言葉を遮った。
そうして案の定、不規則な呼吸を続けるリュミエールは、コクンと頷いた。
「どうしてお前だけは殺されないんだ?」
ヴェリアーニは訊(たず)ねた。
それにはたと彼の顔を見上げたリュミエール。それから一呼吸置いた彼は、彼女の瞳を見つめそのまま話しつづける。
「さっきの男の子もそうだが、話によればお前の親父のように豹変した奴らは皆、その子供さえも毒牙にかけてるらしいじゃないか。それなのにどうして、お前だけは殺されずに済んでるんだ?」
「……それは、分からないわ……」
今更気付いたかのように、呆然と目を見開いた少女。
ヴェリアーニの疑問は、リュミエールに大きな難問として投げ掛けられたのだ。
けれど、言われてみると確かにそうだ。他の家庭の妻子、更には彼女の母親までも手に掛けられたのに何故、彼女自身には被害が及んでいないのか。
その事はまるで、彼女が何かに護られているのではと、二人に思わせていた。
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