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『あれが彦星さまで、あれが織姫さまだよ、ほら、凄い綺麗に輝いてるあの星!』
木の温もりに包まれた部屋で、天窓を指差しあれこれと説明を続けていく少年。
その先には無数の星々が、これでもかと言わんばかりの煌めきを魅せていた。
『え、どれ? よく分からないわ』
そんな彼に対して、隣にしゃがみこんでいる少女は、くりくりとしたその瞳を真ん丸に見開かせ、彼の指差す方を仰視する。
『えぇと、じゃあほら、天の川の中に十字を切るように明るい星があるでしょ? ほら、あそこ! あれが、白鳥座』
一生懸命に指を指し、あれこれと講釈を続ける少年。けれどもそれを聞く少女もまた、どこか興味を引かれたように、彼の話に夢中になっていた。
端から見れば、本当に仲睦まじい光景である。
『その中でも一番明るい星、それがデネブ』
少年は一度、そこで区切りをつけた。まるでこの後の話はとっておきだよと、そう言いたげな瞳を浮かべて。
そして、彼は口を開いた。
『そして────』
そこでリュミエールは夢から覚めた。
目の前に写し出された天窓を埋め尽くすかのごとく夜空に散りばめられた星屑。
その情景は彼女にどこか懐かしさを感じさせ、少しばかりの安心感を与えてくれた。
もっとも、今はそれ以外にも理由はあるのだけれど。
「アルタイルと、ベガ……」
半ば呆けた顔で、リュミエールは星の名前を口にする。
「起きたか?」
「ねぇ、ベル」
「あ?」
「彦星さまと織姫さまはどれか、教えてくれない?」
夢で聞いた、今ではもう聞くことの出来ない、懐かしい声。彼は今、小さな星として自分達を見ているのだろうか。
そんな彼にと、リュミエールは心の底である願いを籠めていた。それを星に離そうというのだ。
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