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空気にさらされ、紙の上に踊る線は徐々に黒へと変じていく。指先から流れ出したときには鮮やかな真紅だったのに。
混じり合う二色で描かれるふっくらとした頬、大きな目。口元はいたずら好きの子供のように少し端が上がっている。愛らしい少女だ。
できあがった絵を少し手元から離し燭台の灯にかざして眺め、女は満足げにうなずいた。絵心のない自分にしてはよく描けている。
長時間同じ姿勢でいたため、背中から肩にかけてが凝り固まっている。大きく伸びをして上へと反った視界に、濡れたような銀の光が飛び込んできた。
真円の月。 女は、目を細めた。
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