第一章

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         ****  先代の国王ロイス三世は、芸術を愛し、保護することを奨励した。それは今のシャルル王の治世になっても概ね変わらず、王都は近隣のどの国よりも華やかで美しく、洗練されていると讃えられている。  そんな芸術的関心の高い国において、ミシェールは最近ようやく絵で生計を立てられるようになったばかりだった。  家から馬車で一日ほどの所にある、領主直轄のタイーナという大きな街にいる画商によく絵を見せに行っていたが、そこですらいつもにぎやかさと人の多さに圧倒されていた。  だから、小屋を出て三日目に馬車が街に入ってからは、目に飛び込んでくるものすべてが衝撃で、しばらくフェオドールの存在すら気にならなくなったほどだった。  大きな通りをたくさんのこぎれいな身なりの人が行き交い、白い石造りの大きな店が建ち並ぶ。馬車の数も多い。  彼の目には想像を絶するほど、大きく立派な街並みだ。タイーナよりも活気があり、建物も佇まいや造りに、どことなく品がある。  ドレスの店の大きな出入り口を縁取る、水の流れのような精緻な彫刻。  青い空に映える、壁の輝くばかりの白さ。  塵一つ落ちていない道には大きな街路樹がどこまでも植えられていて、枝振りもすべて整然と整えられている。  それだけでなく、道に面した窓には色とりどりの花が飾られ、優しく力に満ちた春からを見せてくれていた。  自分の置かれた状況を一時忘れ、ミシェールは生まれて初めての光景に夢中になり、馬車の小さな窓に張り付いていた。  フェオドールと彼の威圧的な雰囲気への恐れを思い出したのは、大通りをはずれ閑静な道に入り、大きな鉄の門の中へ入っていったときだった。  彼は視線を巡らせ、あの射すくめるようなまなざしでミシェールを見た。 「まずは服だな」 「え?」 「いつまでもその見苦しい格好でいるつもりか?」  そう言えば、絵の途中で引きずり出されてきたのだった。  ここへ来る途中に泊まった宿で身体は洗っていたが、よれよれになったシャツもズボンも色の爆発の痕跡を残したままだ。  今更ながらミシェールは、自分の姿を気まずく思った。  馬車が止まったのは、門に負けず劣らず大きな入り口の扉の前だった。  見上げた首が痛くなるくらい巨大で古めかしい館にあっけにとられていた彼だが、すぐに重々しい音を立てて厳めしい扉が内側から開かれる。
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