第一章

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 フェオドールに押しやられるように入ったホールは、天井の高い吹き抜けでとても広かったが、どことなく薄暗い。身を縮めていたミシェールは、奧から出てきた数人の女達に取り囲まれ硬直した。 「終わったら私の部屋へ」  短く言い捨て、フェオドールは館の中へ入っていく。ミシェールは気まずくなるほど恭しい女達に促され、柔らかすぎる絨毯の上を気をつけて歩き出した。  そろいの黒い服に白のエプロンをした彼女たちは、フェオドールの家の召使いに違いない。  湯浴みをさせられ、用意された服に着替えているうちに落ち着いてきた頭が、ようやく考えることを思い出してくれる。  彼はきちんとした教育を受けてきたわけではないが、フェオドールの名前とこの屋敷の様子から、嫌でもその素性の一部はわかってしまう。  名前の中に「デ」を持つのは、貴族階級だ。そしてこの街の規模の大きさ。おそらくここは王都か、それと同じくらい豊かな都市だ。  意識せず溜息が漏れてしまう。推測が当たっているとしたら、なぜ雲の上にいるような見知らぬ人間が自分をこんな目に遭わせるのか。
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