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ソファーとテーブル、机と大きな書棚。それ以外には何もない質素な部屋だった。
世界の流転を守る二柱の女神の像すら置いていない。
だがソファーに身を沈めミシェールをまじまじと見ている主の存在感は、どんな豪華な調度品や芸術品にも勝るほど強烈だった。
目を離せなくなるのだ。表情の一つ、指先の些細な動きすら魅力的で。
「少しは見られるな」
気後れするほど仕立てのいい服を着せられ部屋に案内されたミシェールに、黒髪の青年が発した第一声がこれだった。
伸ばしたままにしていた髪も綺麗なリボンでまとめられ、肌に触れるシャツの布地はどう考えても麻や綿ではない。彼の困惑は頂点に達し、それを見て取ったのかフェオドールは唇の端をつり上げた。
「さて。約束だ、話してやる」
ゆったりと座ったまま、青年は指を組み合わせる。
「ここは王都ロワーヌ。私は先だってオーランシュ公爵家の爵位を継いだばかりだ」
それが具体的にはどれほどの力ある地位かはわからないものの、自分の想像が当たっていたことにミシェールは息を呑む。
だが、次にもたらされた言葉は完全に予想を超えていた。
「そしてお前の母の一族は、代々我が家に仕えてきた者達だ」
「え……!」
フェオドールの笑みが、さらに深まった。
「過去と未来を視ることができ、公爵家に富と権力をもたらした。それがブランの一族だ。お前にも半分はその血が流れている」
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