序章

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俺の名は虎吉。 この茶トラの毛からそう名付けられたらしい。 安直な名前をつけるんじゃねえよと思ったが、王者と呼ばれる虎の文字が入っている名前を少しは気に入ってる。 俺のご主人様の名前は友絵と言う。 親とはぐれて、さまよい歩く小さな俺を育ててくれた恩人でもある。 俺がこの家に来た時は、スレンダーな美人だった。 しかし、不思議なことにどんどん巨大化していき、今じゃ『ダイエットぉ』と叫びながら足をばたつかせてる。 「邪魔!虎吉!」 俺にはもがいているようにしか見えないのだが、本人は必死にストレッチという運動をしているらしい。 たまに巻き込まれて蹴り飛ばされる。 いい迷惑だ。 この家には他に二人の人間がいる。 お母さんとご主人様の弟のてつやだ。 お母さんは、寒い夜にいつも俺を布団に入れてくれる優しい人間。 てつやはご飯をくれるが、俺を動物病院に連れて行く悪人だ。 「虎吉、めんこいな」 と、撫でてくるが俺は騙されない。いい人のふりをして、いきなり篭に閉じ込めるんだ。 そして、痛いことをする『先生』と呼ばれる人間の前に突き出す。 だから、俺はこいつを信じない。 これが普通の家庭なのだろうが、この家は少し変わってる。 人間じゃないものが、沢山うろついているんだ。 そいつらが、家の中のあちらこちらに居座っていて、俺の居場所がない。
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