20人が本棚に入れています
本棚に追加
俺の名は虎吉。
この茶トラの毛からそう名付けられたらしい。
安直な名前をつけるんじゃねえよと思ったが、王者と呼ばれる虎の文字が入っている名前を少しは気に入ってる。
俺のご主人様の名前は友絵と言う。
親とはぐれて、さまよい歩く小さな俺を育ててくれた恩人でもある。
俺がこの家に来た時は、スレンダーな美人だった。
しかし、不思議なことにどんどん巨大化していき、今じゃ『ダイエットぉ』と叫びながら足をばたつかせてる。
「邪魔!虎吉!」
俺にはもがいているようにしか見えないのだが、本人は必死にストレッチという運動をしているらしい。
たまに巻き込まれて蹴り飛ばされる。
いい迷惑だ。
この家には他に二人の人間がいる。
お母さんとご主人様の弟のてつやだ。
お母さんは、寒い夜にいつも俺を布団に入れてくれる優しい人間。
てつやはご飯をくれるが、俺を動物病院に連れて行く悪人だ。
「虎吉、めんこいな」
と、撫でてくるが俺は騙されない。いい人のふりをして、いきなり篭に閉じ込めるんだ。
そして、痛いことをする『先生』と呼ばれる人間の前に突き出す。
だから、俺はこいつを信じない。
これが普通の家庭なのだろうが、この家は少し変わってる。
人間じゃないものが、沢山うろついているんだ。
そいつらが、家の中のあちらこちらに居座っていて、俺の居場所がない。
最初のコメントを投稿しよう!