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ご主人様が俺に頬をすりつけてくると、真っ先に睨んでくるのがこいつだ。
颯と呼ばれている鬼だ。
月に住む鬼で月鬼というらしい。
そんな男がだ。
『俺も猫になりたい』と呟き、羨ましそうに俺をガン見する。
颯はご主人様の夫で、いつもご主人様に何か話しかけているが全くもって気付かれない。
夫のくせに気の毒だな、颯よ。
ご主人様は、人ではない者の声が聞ける。
しかし、姿は見えないらしい。
ご主人様は能力が高いのだが、うまく力を使えないようで、簡単な会話しか出来ない。
それなのに颯は一生懸命、ご主人様に話しかけているのだ。
その哀れな姿に少しだけだが、俺は同情する。
ご主人様とよく会話しているのがあいつ、副長だ。
男のくせに長い髪の毛をしていて、猫の俺にさえわかるイケメンだ。
あいつも鬼で、颯の一族のNo.2だ。
術に長けているせいか、ご主人様の波長を誰より強く捕まえて信頼を得ている。
何かあればすぐに『副長~』と叫ぶご主人様をよくみるからだ。
もう一人、鬼がいる。
2mは超える大きな男で、居間の真ん中に陣取って静かに座ってる。
長と呼ばれるあいつは、No.1の鬼だ。
たまに俺の方を見て、ニカっと笑うが、俺にはそんな趣味はない。
まだまだいろんな奴がこの家にいるのだが、だいたいはこの三人がいつもいる。
最後にこいつだ。
こいつは最大のライバルにして強敵。
いまだかつて勝った事はない。
「もしもし、くみっち?」
ご主人様がいつにもまして笑顔で携帯電話を離さない。
俺が喉をならして近づこうものなら「今、くみっちと電話してるんだから邪魔しないでよ」と怒られるのだ。
くみっちとは、ここ北海道から遠く離れた九州に住む女で、ご主人様の親友だ。
しかし、こいつと電話すると軽く三時間は話し続ける。
二人でよく我が家の鬼達の話をしているから、ご主人様と同類なんだろう。
俺はいつか鬼達やこの女を越えてやる。
そして、ご主人様のNo.1になるのだ!
そう闘士を燃やしながら今日もまた俺の新しい1日が始まった。
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