頼子

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       昭和十三年 夏       三ッ縄村に続く細い道は、あの時のままだった。 ねっとりとした闇の中に溶け込んだ草木の匂いと、あふれるような虫の声。 むろん、それ以外はすべて、三年前のあの時とは違う。 私は村へ向かっているのだし、なにより、私を迎えに・・・ いや、捕えに来た朽縄(くちなわ)家の車に載せられているのだ。 決して逃げられぬように、両足の骨を、砕かれて。 その傷の熱と痛みとでかすむ目に、かすかに村の灯りが届く。 結局私は逃れることはできなかったのだ。 この村から、朽縄の家から、そして、頼子から。
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