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私に与えられた仕事は、頼子の世話だけだったが、決して楽なものではなかった。
頼子は、私とさほど歳も変わらぬようであるというのに、身の回りのことがまるで出来なかったのだ。
驚いたことに、言葉すら教えてもらってはいない頼子を、私は大きな赤んぼうのように扱わねばならなかった。
「頼子様はの、大事なお役目があるのじゃから、他の事は何もいらぬのじゃ。
余計なことを教えてはならぬ」
蔵の中、私は頼子の着物を着替えさせ、身体をふき、髪をといて、食事を口元まで運んだ。
頼子はすぐに私になついてくれた。片言も満足に話せない頼子だったが、しばらくすると特に教えずとも私の名前だけは覚えたようだった。
「しまお」
頼子がはっきりと口にするのがその言葉だけであることが、私は少しうれしかった。
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