45人が本棚に入れています
本棚に追加
「なんだ、不破と月詠がいないじゃないか。二人はサボりか?」
入り口から教室の中を見渡した先生はそこで言葉を切る。ため息を一つ。
「……いや、見舞いか」
結香先輩が意識不明であることを、保健室の主である先生は勿論知っている。ただ、先輩が何か鋭い物で貫かれたことや、妖怪が関係していることは当然のことながら知らないだろう。
「今は確か……この学校の近くにある大学病院に入院しているんだったな。早く良くなるといいな」
多田先生はにっこり微笑んで。
「目を覚ましたら何か特別な力に目醒めたりしてな! 千里眼とかさ」
良いこと言ったって思ってたけど前言撤回。多田先生はオカルト研究会の顧問の鑑ですね。……容態の心配をしつつもそういうことが起こるのを期待しているとは。
「小説でもあるまいし、そんな超常現象はそうそう起こりませんよ……」
「そうか?」
哀しそうな表情へと一転。ころころと表情が変わるのは見ていて飽きない。
「……と長話をしすぎたな。様子を見に来ただけだからそろそろ行くよ。じゃーなー」
「え、ちょ……行っちゃった」
呼び止める間もなく走り去ってしまった。速いことで定評のある天狗ばりの足の速さである。……いや、流石にこれは言い過ぎか。
「行っちゃったね、先生。何だか親しみやすそうな先生だったのさ」
直葉ちゃんは実は、扉に手がかかると同時に素早く机から離れていた。……行儀が悪いと怒られないようにだろう。一方、先生が来るまで熟睡していた桔梗ちゃんはというと。
「昔、何処かで会ったことあるような気がするわ……気のせいかしら」
「夢の中で逢った、ような?」
直葉ちゃん。夢の中で出てきた、面識のない人のことを覚えていられるのは相当難しいと思うけど?
最初のコメントを投稿しよう!