一章

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 四時間目の数学が終わり、私たち三人は各々お昼を持って中庭に集合する。一歳上の幼なじみ曰く、中庭は冬でも暖かい陽射しが降り注ぎ、校舎の構造的に強い風が吹き込まない為に過ごしやすいとか。私たちはその恩恵をうけていた。 「はぁ……疲れた。田中のあんにゃろう、私が慌てふためく姿を嘲笑いたいが為に何度も指したに違いないわ」 「いや、くじ引きでなんだし偶々だと思うよ?」  今日は自家製サンドイッチ。ベーコンとレタスが入っていて、トマトは苦手なので抜いている。それを見たクラスメートが「ねぇねぇ、BLTサンドのトマト抜きに興味ある!?」と言ってきたのだけどあれは一体何だったんだろうか。 「良いわね、雫はきちんと自炊出来て」  私のサンドイッチを横目に、桔梗ちゃんは学食で購入した惣菜パンを一口。パンが美味しかったのか、彼女は咀嚼しながらつり目がちなそれをたらしてみせた。……うん、これは自炊のうちに入らないと思う。 「ん、人間って大変なのさ。ボクを拾ってくれた人もかなりの力を持っていたけど、空腹だけには勝てなかったみたいで三食必ず食べてたのさ」 「直葉ちゃんは九十九神だから食物の摂取をする必要が無いもんね」 「うん。ボクは呼吸だけで十分なのさ。一応食べることでも力を得ることは出来るけど」  そう答えてみせる彼女はそのままの姿でふよふよと空中に浮いていた。これは毛羽毛現の時の癖らしいのだけど、これを他人に見られたら大変だよね。最初は驚いていた桔梗ちゃんも今では全く気にしていない。慣れって怖い。  桔梗ちゃんが恐れないのは、直葉ちゃんに敵意がないからであって、敵意ある妖怪……例えば魍魎だったり、カマイタチだったりが襲い掛かってきた時にはもう可哀想なくらいに怯えている。怯えている姿はまるで小動物のようで可愛らしくて、お持ち帰りしたいくら……ゴホン。
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