一章

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「んで? 雫は?」 「え?」  二人とも頑張っているんだなぁ、なんて思いながらサンドイッチを噛っていると、桔梗ちゃんが何やらこちらに向かって言ってきた。けれど少し考え事をしていたから聞き逃してしまった。 「だから、あんたは何をやってるのって」 「あー……。うーん、札作りとか」 「しぃ、札作りって何さ」  自分が普段していることを思い出しながら呟くと、直葉ちゃんはベンチに座ったまま首をこてん、と可愛らしく傾げてみせた。 「ホラあんた、雫なんだから勿論、式神とやらを召喚するための……」 「神社とかで売ってる安全祈願の札なんかを作ってる。後は新聞配達したりしてるよ」 「なんだか内職ちっくだわ!?」  桔梗ちゃんは何故かかなり驚いていたけど、一人暮らしにはお金は必要不可欠ですから。ましてや、私みたいに本家から疎まれてる存在だと、金銭面なんかでの援助を受けられないからなぁ。あれ、目から汗が……。 「やっぱり人間って大変なのさ。人間じゃなくて良かったよ」  桔梗ちゃんは先程の驚愕で、本人も知らず知らずのうちに直葉ちゃんの手を離していたらしく、するりと抜け出した直葉ちゃんは宙に浮かぶとその場でくるりと一回転し、ニヤリとする。 「あのね、しぃ。さっき桔梗がした質問は、しぃがどんなバイトをしているかじゃなくて、君がどうやって鍛練しているかを聞いているんだと思うのさ」 「そうよ。さっきの質問は直葉の言った通りそのままで合ってるわ」 「成る程……」  どうやら私はどうでもいい情報を公開していたらしい。それもそうか、誰が人のアルバイト事情を知りたいだろうか、いやいるはずがない。それにしても、人間なのに九十九神よりも人間のことを理解できない私って……。 「教えないよ、企業秘密ですから」
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