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入り口付近にいた桔梗ちゃんが扉を閉めて私の真横に座ったのを見た直葉ちゃんは語り出した。まぁ、その内容は凡そオカルトとはかけ離れていたんだけれど。
「太刀っていうのは日本刀の一種で、二尺以上の刃を下にして腰紐に吊して携帯していたんだよ。これを『太刀を佩く』って言って、腰に『差す』打刀と区別したんだ」
太刀の九十九神である直葉ちゃんの太刀についての解説が始まった。あれ、なんで? そんな疑問を感じつつも静かに聞く私。横を見れば、俯く桔梗ちゃんが視界に入った。……もしかして寝てる?
「人を斬る為に生まれた太刀は、いつの間にか権勢を示す美術品としての意味合いが強くなってね、実用からは遠ざかってしまった。物によっては漆や革紐、組紐、金鎖なんかで柄や鞘などの拵えを装飾したものなんてのがあるよ。ボクはチャラチャラしてるのが嫌だから付けてないけどね」
「あれ、でもさ。直葉ちゃんって普通の太刀とは違うんじゃない? 鍔が無いよ?」
太刀というのは両手でないと振り回せなそうだけど、私でも片手で振り回せるし。そう付け足すと直葉ちゃんは大きく頷いてみせる。
「良い所に気付いたのさ。ボクは黒作太刀(くろつくりのたち)という、華美な装飾を排した実戦指向の太刀だ。柄の拵えは鉄で、握りには革……あ、ボクの革じゃなくて牛のね。それを巻き付けてある。鍔は無いし、鞘は別に必要ないかなって」
九十九神だけなら只の太刀だったそうだが、毛羽毛現と混ざったことによって、黒作太刀となったのだそうだ。握りには牛の革を巻いていると言っていたけど、滑らかだったし、その辺りはこだわっているのか。
「それで、太刀にも種類があって――」
ガララララッ! ……続けようとした直葉ちゃんの声を遮るように、教室の扉が物凄い早さで開かれた。
「きゃっ!」
あ、桔梗ちゃんが覚醒した。それにしても可愛らしい悲鳴だこと。私なんか出そうとしても出せないよ。
「やぁ諸君。皆のアイドル、白衣の天使……多田ちゃんだよっ!」
扉を開けて登場したのは、金髪で青灰色の瞳と纏う白衣が特徴的なオカルト研究会の顧問……多田 莉緒(ただ りお)その人だった。
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