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「……未世、」
「…なぁに?」
今まで一言も言葉を発しなかった為か、声を掛けた瞬間にビクつく小さな体。
怖いのか、伺い見るような視線がこちらを向いている。
「病気、治してあげよっか?」
「…え?」
驚き見開く目を見て、ニヤリと笑う。
きっと酷く怖く笑っていたと思う。
「咳、ケホケホすんのヤだろ?」
「やだ…」
「それ、なくなってほしくない?」
「……………ん、」
無くなって欲しいという意思を示したものの、乗り気じゃないのか、視線を俯け小さく返事をしただけだった。
「なら、治してあげる」
「…………」
未世がうんと一言言えばそれで終わるのに、肝心な所で頷かなくてイラつく。
「未世は元気になりたくねぇの?」
「……なり、たい…」
「だったら、俺に治してって言えばいいんだよ」
「…………」
信用出来ないのか、一向に頷かない未世に苛立ちは増幅していく。
「俺ね魔法が使えんの。ホントだよ?駿兄ちゃんの病気も小さい時に治したんだよ。」
「……ホント?」
「ホント、ホント。だからさ、未世も治してあげるよ」
過去の事象を持ち上げ、信憑性を高め、信じただろう所で未世へと手を伸ばした。
触れて念じてしまえば此方のものだ。
断りきれなかった自分を恨んで生きればいい。
けれどその手は、拒絶の言葉と共に小さく押し返された。
「ヤダ!」
「……なんで?」
俺は何故拒絶したんだと怒りに支配されていて、未世が子供とかどうとか考えず、怒りに任せ睨みつけていた。
「みよ、りょうちゃんがくるしいのヤダもん!」
「…はぁ?」
何言ってんだこのガキは
それが最初に思った一言だった。
「未世は楽になんだよ?」
「ヤなのっ!……けほっけほけほけほ……」
「ほら、咳出てんじゃん」
咳に苦しむ背をさすりもせず、ただバカじゃねーの?と見下ろすだけ
もう俺には何もかもがどうでも良かったんだ
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