可愛いあの子

4/21
前へ
/410ページ
次へ
遠慮気味に後ろを振り向く。 「5?」 晴馬は特に焦る様子もなく、平然と答えを述べている。 当てずっぽうだろう。 だってあたし、そこの問題、分かんなくてやってないもん…。 あー…、晴馬に呆れられちゃうかな。 何が「コロッケパン一個ね」だよ。偉そうに。 「――正解だ、よく出来たな」 「……は?」 今の間抜けな声は、あたしの声。 当てずっぽう?にしても、運よすぎるでしょ。 再び晴馬を見ると――得意気にあたしを見下ろし、微笑んでいた。 「え、え?」 状況が理解出来ないあたしは、はたから見たら挙動不審だ。 「なんだ、遠野。何か質問か?」 遠野と呼ばれたあたしは、今度は先生に顔を向ける。 「やぁー…何でもないです」 あははーと笑った後、あたしはまた後ろを向く。 「…何で?」 とだけ聞いたら、ふはっと笑われてしまった。 「何でだろーね」 え…ワケ分かんない。 単なる当てずっぽう? それとも、最初っから持って来てたの? それとも――わざと、忘れてきたの…? 「ご、ごめんね」 とりあえず謝ると、晴馬は目を丸くさせた。 「可愛いーじゃん。どうしたの?」 “可愛い” その一言で、あたしを黙らせてしまうなんて…晴馬は、ズルイ。
/410ページ

最初のコメントを投稿しよう!

225人が本棚に入れています
本棚に追加