225人が本棚に入れています
本棚に追加
さっき決めた心が、また揺らいでしまう。
信じようと決めたのに。
弄ばれてるんじゃないか、って、悪い考えが、心臓を鷲掴みする。
「嘉奈?」
ごとちんの視線に気が付き、あたしは意識を戻す。
「あぁー…ちょっとぼーっとしてたっ!ごめんね」
と謝ると、ごとちんではない、あたしを呼ぶ声が聞こえた。
「嘉奈」
反射的に肩がビクッと痙攣する。
晴馬の声、笑顔、全部が体に染み付いてしまっている。
「朝から保健室って、やっぱ何かあったんじゃん」
目を細めて、少し怒り気味な晴馬。
……あんな些細なことで、簡単に揺らいでしまう。
“信じよう”とする気持ちが、今は霧のように、実体がない。
「大丈夫、ちょっと頭痛かっただけだから」
「ふーん…」
晴馬は納得がいかない様子。
そんなとき、一番見たくない場面が、再び訪れた。
「――沖田くん、はいっ!ノート貸したげる」
晴馬に差し出されたノート。
それがあたしのものじゃないことと、晴馬の表情。
「サンキュ」
あたしの“信じる気持ち”を壊すのには、充分だった。
最初のコメントを投稿しよう!