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「何固まってんの、早く乗れば?
マジで遅刻するし」
晴馬はいつの間にか、自転車に乗っていた。
そして、自分の後ろを顎でしゃくる。
「あ…、うんっ」
――ささやかな一時が始まる。
荷台に跨り、背中を合わせる。
「出発進行ー」
あたしが冗談めかして言うと、
「おー」
晴馬もそれに便乗する。
あたしたちは小さく笑い、風の中を、自転車で走り抜ける。
楽しいし、幸せな時間。
短いから余計で、それがどれだけ大事だか分かる。
だけど、その幸せを噛み締めてる少しの間。
虚しくなる。
あなたの隣が、あたしの位置でないことを、痛感させられるから。
だからせめて、あたしはあなたの背中。
あなたの背中が、あたしの特等席。
それで、いいんだ。
これから先もずっと。
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