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「あ、ヤバイ。忘れた」
不意に、晴馬が呟いた一言。
疑問に思い、「何を?」と聞く。
「宿題。嘉奈(カナ)やってきた?」
嘉奈。これはあたしの名前。
いちいち、これにはドキドキしない。
幼いころから、呼ばれ慣れてしまっているものだから。
「うん、当たり前じゃん。
一応言っとくけど、宿題見して~!とかはなしね」
前もって言うと、表情は見えないけど、焦っているようだった。
「うっそ、マジで?
俺当てにしてたのに」
「まー頑張れ。晴馬、今日日にち的に指されるんじゃない?」
「……それ、早く言えよっ」
どうやら、頭に入ってなかったらしい。
晴馬はペダルに力を入れ、速く漕ぎだす。
あー…、早く学校行って宿題やるつもりなんだ。
悟ったあたしは、黙ったまま。
嫌だ。…言えないくせに、そんなこと思ったって、無駄なのに。
少しでも長く、この時間をもっと味わっていたかったのに。
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